地域医療を支えるクンデ病院

僕が住んでいるクンデ村の家のすぐ近くに、クンデ病院がある。ここはクムジュンスクールと同じく、エベレスト初登頂をしたエドモンド・ヒラリーがシェルパ族のために作った病院だ。1966年開業というから、もう半世紀以上もシェルパ族の健康・医療を支えてきている。開業当時からヒラリー財団がサポートしてきて、欧米の医師が派遣されてきていたが、2002年からはシェルパ族のドクター・カミがネパールスタッフを率いて運営している。

日本の病院と比べてしまうと質素だが、このエベレスト街道の3000メートルを超える地域で病院と呼んでいるのはここだけ。さっそく病院内を見学させてもらう。

建物の外観からしてもそれほど充実しているとは思えなかったが、医療の中心は診察室。ここにある患者のカルテの保管場所を見ると、地元のクンデ、クムジュンのみならず、標高400メートル下にあるナムチェバザール、ターメやポルチェ(私の足で5時間かかる)、さらに遠くの地元の人でも2,3日かかる標高が高いところからも患者がここまで来ている。まさにエベレスト街道に住むシェルパ族の命がここにかかっているといっていい。

病院のスタッフは7人。うち患者の診察に直接関わる医師が2人、看護婦が2人。日本のように何時間も待たされて診察時間がたった3分みたいな混雑はないが、なにせ医師がたった2人なので患者の病気は内科、外科などに関わらずすべて見なければならない。病院内の機材を見ると、X線撮影機や心電図など電気で動く機器はある。電気が来ていなかった昔はどうしていたのかと聞くと、暗室を備えた簡易X線しかなく、あとは医師の五感を通しての診察に頼っていたのだとか。

標高が高いところにある病院なので、高山病対策のギャモウバック(というらしいが)や酸素ボンベも備えてある。赤ちゃん用の保育器もあるが、出産もするらしい。外科手術もするが、ここではもちろん簡単な手術しかできないので、手に負えないときは首都カトマンズまで患者を送りだす。日本の地方でも同じ状況なのだろうが、地域医療を支えると一言で言っても大変なことだ

さて、病院内の見学が済んだころ、表に患者が何人かすでに待っていた。最初の患者はターメから。見るからに弱弱しいが、それでも僕の足で5時間もかかる村から歩いてきたのだから驚きだ。慢性の病気なのですでに何回も来院していて薬をもらって帰っていった。次は前に傷を縫ったところを抜糸する方がきた。富士山よりも高い山中なので、擦傷や骨折といった症状は多いらしい。

3人目の患者は60代のおばあさん。この方もターメに行く途中にあるターモ近くから来たという。もともと高血圧なので薬をもらいに来ていたが、最近足の付け根の痛みが激しくなったとかで見てもらっていた。ただ僕の足で3時間もかかる村から、このおばあさんはここまで歩いてきたのだから、これまた驚きだ。自動車などない山中なのだから、足が痛くても自力で歩いてこなければ直らない。これはきついな!

待合室で何時間待とうが、診察時間がたったの3分だろうが、自分で何時間も歩かないで済む日本に病院のありがたさをしみじみと感じてしまった。それとともに、今自分がプチ移住している家のすぐ隣に病院があることにものすごく感謝したのだった。

ところでこの病院の裏側にはシェルパ族の文化を紹介する庭園がある。病院創設50年を記念して作られた。このクンデ病院に来る人は患者だけでなく、ナムチェバザールから高度順化をするトレッカーが日帰りで見学に訪れる。その外国人用にこの庭園は造られたのかと思っていたら、実は違うようで、患者の心を緑でいやす庭園なのだという。僕にとってはここよりも目の前にドカンとそびえるタムセルクの方がよっぽど心が癒えるのだが、やはり生まれた時から見ている光景のすごさは地元の方々にはなかなか分からないのだろう。

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です